2024年度に活動終了した若手研究会成果報告
No. 8 若手研究グループ「原子力エネルギー用材料研究グループ」活動最終報告書
活動期間:2023年3月~2025年2月(2年間)
活動目的
本研究グループでは、照射損傷及び微小試験片技術というエネルギー炉材料に特有の現象を共通の基盤とし、革新炉材料(核融合炉、高速炉、小型モジュール炉等)や既設炉材料の垣根を越えて、将来を担う若手研究者を中心とした議論の場を設ける。各所属組織の事情に縛られない自由闊達な議論を通じて、産学官のネットワークを形成することを目的とする。
活動概要(実施状況・成果等)
活動期間中、計4回の研究集会を開催した。産学官のネットワークの形成を目的としていることから、すべての研究集会は金属学会ホームページ上で告知し、オープン参加型の集会とした。結果的にすべての集会で民間素材メーカー、民間の原子力研究開発企業、大学、学生、国立研究開発法人からの若手研究者の参加があり、ネットワークの形成に資する機会となった。
第1回研究集会(水戸市)では、構成員10名による発表が行われ、各所属における原子力材料研究の現状と、今後10年間の展望について情報共有と議論を行った。本分野の今後の研究展開を探求するにあたり、論文ネットワーク可視化ツール等を使ったビッグデータ解析や、若手研究者による中性子照射ニーズの集約の必要性などが指摘された。
第2回集会は北海道大学(札幌)にて開催し、核融合炉材料の照射下ミクロ構造進展モデル開発やマシンラーニングによる照射損傷予測など、計算科学を用いた研究に関する講演が行われた。討論の結果として、「マルチスケールモデリング」及び「ミクロ-マクロ相関」がキーワードとして挙げられた。これらの概念は旧来から存在するが、照射損傷とその結果としての材料特性変化を結びつけるものとして、改めて真摯に取り組む必要があると指摘された。
第3回集会は核融合科学研究所(多治見)にて開催し、新材料開発のためのイオン照射の活用、原子炉圧力容器の構造健全性に関する破壊力学評価研究の講演が行われた。また、室賀健夫先生にご講演いただき、未解明となっている研究課題の整理、ナショナルプロジェクトや研究炉を抱えている国研研究者と他の研究者との意思疎通の重要性をご指摘いただいた。
第4回集会(東京都内)では、米オークリッジ国立研究所にてSenior R&D Staffとして原子力材料研究の最前線に携わる小柳孝彰博士をお招きし、米国における照射材料研究の現況をご講演いただいた。聴衆との討論においては、米国での研究予算やインフラ整備状況について、国内状況との違いに関心が集まり、活発な意見交換が行われた。東北大学・笠田竜太教授には、原子力材料分野がこれまで取り組んできた学術的課題について、過去のJournal of Nuclear Materials誌を対象とした統計的解析の結果が紹介された。自由討論では、本分野のさらなる活性化に向けて、高校生・学部生への訴求、博士課程進学者の増加、女性研究者を含むダイバーシティの推進、研究室間の学生交流の重要性など、幅広い観点から活発な議論が展開された。
本活動をきっかけとして、構成員間(大学と企業)の共同研究が始まったことは一つの成果である。また、本研究グループの活動の総括として、2025年秋期大会において、本グループ構成員を世話人とする公募シンポジウム「S6. 原子力エネルギー用材料―持続的な原子力材料コミュニティ発展のための共通項―」を開催することとなった。32件の講演が予定されており、世代を超えた活発な議論を期待している。
最後に、各集会でご講演頂いた方々に厚く御礼申し上げます。また、本グループの予算は主に講演者の旅費や謝金、会場費に充てられました。ここに深く感謝申し上げます。
若手研究グループ世話人
岡 弘(北海道大学大学院工学研究院材料科学部門)

No. 9 若手研究グループ「非鉄金属材料の水素侵入・水素脆化研究グループ」
活動期間:2023年3月~2025年2月(2年間)
活動目的
今後の使用量拡大が期待され水素脆化による劣化が懸念されるAl合金およびMg合金を中心とした非鉄金属材料を対象とし、従来の鉄鋼材料に対する水素侵入・水素脆化研究のアプローチに留まらない新しい手法に関しての議論の場を提供しつつ、今後この分野を牽引するであろう30代を中心とした若手研究者の人材育成、交流を目的とした。
活動概要(実施状況・成果等)
2023年度には計5回、2024年度には3回の研究会を開催し議論を深めた。
2023年度は主にオンライン形式で研究会を実施した。第1回ではメンバーの自己紹介と運営方針の議論を行い、NIMS津崎氏による鉄鋼材料の水素脆化研究に関する講演が行われた。第2回では、NIMS土井氏が腐食と水素透過法について紹介し、東北大学 秋山教授に大気腐食環境下での水素侵入挙動や新しい水素マッピング手法についてご講演いただいた。第3回では、岩手大学 清水助教と東北大学 味戸助教が研究紹介を行い、上智大学 高井教授に高強度鋼の水素脆化に関する潜伏期から破壊に至る過程の解析についてご講演いただいた。第4回では、九州大学 藤原助教とNIMS 和田氏が話題提供を行い、大阪大学 堀川准教授にアルミニウム合金の水素脆性評価と抑制法についてご講演いただいた。第5回はNIMSにて初の対面開催となり、年度の振り返りと次年度の方針を議論した。NIMSの装置見学の後、NIMS板倉氏によるオペランド水素顕微鏡に関する講演が行われ、つくば市内で学術交流会も開催された。
2024年度は、対面とオンラインを併用し、計3回の研究会を開催した。第1回では運営方針の議論とともに、新居浜高専 真中助教、名古屋工業大学 星准教授が研究紹介を行い、NIMS 柴田氏にマルテンサイト鋼の水素脆性破壊挙動についてご講演いただいた。第2回では、名古屋工業大学徳永助教とNIMS廣戸氏が話題提供を行い、JAEA五十嵐氏に第一原理計算による金属・水素解析についてご講演いただいた。第3回では、東北大学 柿沼助教、豊橋技術科学大学 石井助教、UACJ高谷氏・京氏が研究紹介を行い、2年間の活動総括と東京駅での交流会を実施した。
本研究グループ活動のまとめとして、2027年春期もしくは秋期講演大会において、公募シンポジウムあるいは企画セッションの開催を予定する。
2年間にわたる活動を通じて、水素脆化に関する多角的な研究情報の共有と、分野横断的な交流が活発に行われた。特別講演では、鉄鋼材料やアルミニウム合金を取り上げ、解析手法から理論計算まで幅広いテーマについてご講演いただき、メンバーの研究理解と連携が深まった。本グループでの交流を通じて、メンバー間の新たな共同研究や競争的資金獲得が生まれた。このような活動の機会を賜りました日本金属学会に厚くお礼申し上げます。
若手研究グループ世話人
土井 康太郎(物質・材料研究機構)
若手研究グループ
◎若手および調査・研究事業を活性化することを狙いとして、若手主体の研究グループを発足しています。
研究会や(研究助成申請等を目指した)新規研究テーマの開拓に向けた課題の抽出や目標の明確化を狙いとした活動を行います。
https://jimm.jp/research/
